『落書き』

 

これから、些か馬鹿げたお話をする事のなるかもしれないが、

騙されたと思ってお付き合い願いたい。

もしかしたら、貴方にも身に覚えのある出来事だったかもしれないから・・・。

 さて、周知の事だが、タイトル通り、これからお話するのは、

「落書き」にまつわるお話だ。

誰もが、何気なく、或いは、もっと意図的に行った事のある行為だろう。

だが、これから貴方にお話するのは、そんな中でも、例外的に奇異な結末を

迎えた一つの落書きの経緯を語るとしよう・・・。

 一人の小学生がいた。彼は、人並み外れて落書き好きだった。

彼くらいの年齢だと、教科書の人物の写真に落書きをしたり、

ページの隅にぱらぱらマンガを書いたりするものだろう。

それが、友人の間で好評を博してしまったりすると、

隣のクラスからわざわざ借りに来るものまで現れる始末になる。

それが、彼をますます天狗にしてしまった原因になっている。

それ以外は、これといって目立つ事のない普通の小学生なのだが、

とある出来事を境に彼は変わってしまった・・・。

 彼は、その日いつものように学校へ通い、

放課後も最終下校時刻まで友人達とサッカーをしたり、

内緒で持ってきている携帯ゲームで通信対戦に興じたりと、

時間も忘れて遊んでいた。

そして、先生に追い出されるように下校するのが日課だった。

通学路の途中で友人達別れた後、

彼には、もう一つの日課のごとく寄り道をする場所があった。

それは、ちょうど家と学校の中ほどに位置する神社である。

そこには、神主も立ち入らない秘密の場所があった。

境内の裏手には、竹林が広がりその突き当たりは、

岩肌が剥き出しになった山があり、切り立った崖を見上げる状態になる。

竹林の奥へ入ってしまえば、世ほど大声を出さない限りまず見つかる事はない。

そこが、彼の憩いの場所なのだ。

雨の日以外、欠かさず通うのには訳があった。

切り立った崖は、長い間の風雨に晒され摩耗しているため、

崖の全てが、彼専用の巨大なキャンバスなのだ。

学校から拝借した短くなったチョーク、或いは軟質な石等が、

ここでのペンになる。

神主に見つからないようにそろりと境内の脇へ回り、

足早に竹林へ向かった彼は、岩の上にカバンを放り投げると、

ため込んだチョークを拾い上げキャンバスに向かい合った。

「さて、今日は、何にしようかな・・・?」

それが、ここへ到着してからの彼の第一声である。

ここ数日、好天に恵まれたためキャンバスの余白は少なくなってきている。

それもその筈、百数十匹にも及ぶどこか愛敬のある

モンスター達が、所狭しと描かれているのだ。

どれも素晴らしい出来であるといえるだろう。

これを友人達が見たら絶賛する違いない。

彼は、キャンバスを眺めながらそう思いほくそ笑んだ。

だが、彼は、敢えて誰にも告げていない。

誰か一人にでも見せてしまえば、瞬く間に広って、

皆が大挙してやって来る事だろう。

もし、そうなってしまったら、自分だけの憩いの場で

なくなってしまうし、いずれは、神主にも見つかってしまう。

そうなれば、もうここ足を運ぶ事は出来なくなるだろう。

本当なら、仲の良い友人には見せて上げたいのだが、

こればかりはそうもいかない。

それに、キャンバスいっぱいに描かれた彼等は、

自分だけの存在であって欲しいのだ。

雨が降ったらお別れなのだが、また描いて上げればいい。

三日もあれば書き上げられる自信が彼には合った。

それから、しばらく書き足しに夢中になっていたが、

一通り終わると、満足げに頷いてから、

給食の余りから拝借したパンと買っておいたジュースで

休憩しながらキャンバスを眺めていた・・・。

 日は、すっかり暮れていた。彼は、いつのまにか眠って

しまっていたようだ。

辺りは、すっかり闇に包まれている。

彼は、目を開けたつもりだが、何も見えない。

一体、どのくらいの時間が過ぎているのだろうか?

時計がない上、黒々とした雲が空を覆い月明かりも閉ざされている。

幼い少年には、酷というもので恐怖心を煽るには、余りある程だった。

だが彼は、なかなか気丈なもので、顔には怯えを見せているものの

冷静にカバンの中から携帯ゲーム機を取り出し、電源を入れた。

すると、辺りを青白い光が照らし出した。

彼は、横にある摘みをいっぱいまで回し、持ちうる最大限の光源を確保した。

とはいえ、懐中電灯にも及ばない微々たる程度で

かろうじて足元を照らし出せるくらいだ。

視界は、二メートルにも満たないが、行動するだけの明かりは確保できた。

彼は、手早く身支度を整えると、キャンバスのモンスター達に別れを告げ、

境内へ向かった・・・。

思った以上に足元はおぼつかず、なかなか前に進めない。

両親は、共働きで帰りが遅いので自分が帰っていない事は、

知られていないだろうが、見たいテレビを見逃してしまったし、

明日まで提出の宿題をやっておかないと先生に大目玉だ。

少年は、重たい足取りで、深々とした竹林を進んだ。

・・・一体、どこを歩いているのだろう?

本当に境内へ向かって歩いているのだろうか?

岩壁から、垂直方向に歩いていけば、外に出られるはずである。

少なくとも方向音痴ではないが、幾度となく竹にぶつかりそうになり、

それを避けて歩いてきたので、多少は、方向もずれていよう。

その都度、勘を頼りに修正してきた。

そろそろ出れてもよい頃なのだが、一向に出口は見えてこない。

電池の消費量が多いのか、ゲーム機の明かりも弱々しくなってきた。

少年は、焦り始めていた・・・。

不安と苛立ちを堪えながらも足並みを早め、出口を捜し歩いた・・・。

 どれほど歩き回っただろうか・・・。もう、ゲーム機も明かりとして

役に立たなくなりつつある。

・・・少年は、その場に立ち止まり、大きく溜め息を吐いた。

それは、安堵の溜め息だった。

不安さから辺りを泳いでいた視線もじっと一点を見据えている。

そう、明かりだ。

間違いなく境内の電灯だ。

少年は、嬉々として足早に竹林の出口へ向かった。

ゲーム機をカバンにしまい、明かりを目指して進む。

どうやら、予測していた場所とはかなり異なった位置をさ迷っていたようである。

少年は、安心したせいか苦笑を漏らしながら、

想定していた自分の辿り着く位置をちらりと見やった。

・・・何だろう、あれは?

少年は、ふと好奇心に駈られ境内の裏手の物陰にある

大きな物体に目をやった。

一瞬、宙に浮いているかと思ったが、そうではない事が分かった。

こちら側に来てしまうと、お堂の陰になり、再び視界は闇の中だが、

運良く雲の隙間から月が顔を覗かせ始めていた。

少年は、側に駆け寄ると、再びゲーム機の電源を入れた。

そして、疑惑の物体に光を向けた・・・。

 それ以降、少年の記憶が断片的になっていた。

一体、自分が何を見たのか・・・。

いや、それは覚えている。

あれは、人だった・・・。

自分よりも二つか三つ年上であろう筈だった少女だ。

だが、彼女の年齢は、その時点で永遠に停止していた。

もう年を取るという事はない。

彼女は、生命活動そのものを停止していたのだから・・・。

折りしも月明かりが、彼女の禍禍しい表情を

鮮明に照らし出し、少年を視線の無残に飛び出し定まらない白目で睨みつけていたのだ。

自分が目を覚ましたのは、翌朝、神主と大勢の警察官に囲まれた神主宅だった。

そして、まもなく両親が現われ、事情聴取の後、引き取られた。

こっぴどく叱られたのは言うまでもないだろう。

 数日後、彼は、登校した。

学校では、何かと事件が話題になって、どこから洩れたのか

事件の目撃者として、追い回された。

心配してくれる者もいれば、事件を知りたがるだけの者とそれぞれだが、

少年は、頑なに黙秘を保った。

警察にも念を押されたが、事件と自分とは全くの無関係だと・・・。

だから、他人に喋る事は何もない。

少年自身もそう思っている。

無論、警察にもあの場所にいた事は口にしていない。

だが、当分あそこへは足を運ぶ事はないだろう・・・。

 それから、まもなく平穏な日々が戻り、少年は、元気を取り戻した。

あの場所へ足が向く事は、まだないが、落書きは止めていない。

毎日、学校へも通っている。

もう、誰も事件の事は口にしない。

だが、時折、嫌でも思い出される事があった・・・。

彼が、落書きを始めると、いつのまにか描いているのは、

線画の首吊りの図・・・そして、そのものに劣らないほどリアルな

あの女性の死に顔・・・だった。


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