『パラドクス』

 

 私の名は、葉子。

今、とってもハッピーな人生を送っている。昨日は十八歳の誕生日だったし。

でも、時々、奇妙な・・・そう、説明のつかない体験をする事があるんだ。

大概は、すぐに忘れてしまうけど、今回ばっかりは・・・。

だって、これから、どう説明すればいいかも分からない始末だもん・・・。

 今日は、久しぶりにバンドの練習でスタジオに入った。

三週間とちょっと振りかな。

ボーカルの・・・えっと、そうそう。武井君とは電話で何度か話したし、

数日前には、新宿の楽器屋さんでバスドラのペダルを新調するのに

付き合わせたから会ってはいるんだ。

何件かで吟味して、ゲーセンで遊んで、晩御飯まで奢ってもらっちゃった。

勿論、重いペダルは、ほとんど武井君に持ってもらって新宿を闊歩。

なかなか楽しかったな。

あれ、こういうのデートって言うのかな?

まあ、汲んだり新宿まで出てきた甲斐があったと言うものだ。

それは、ともかくバンドのメンバーが全員で顔を合わせるのは

久し振りの事なの。

で、当然、皆張り切って練習を始めた。

今回、いつものスタジオの予約が取れず、別のスタジオなんだけど、

はっきり言って狭い。

いつもは、大体十五畳位の部屋なんだけど、

今回は、十畳とちょっとってとこかな。

私は、ドラムだから自分のスペースの確保には問題ないんだけど、

皆は、だいぶ窮屈そう・・・。あっ、ほら、またぶつかってる・・・。

狭いんだから、ポーズなんて取らなきゃいいのに・・・。

ま、練習は楽しくやれたし、新調したペダルも調子よいし、

今回から加えた曲の出来もまずまずだと思う。

久し振りの練習とあってか、皆しっかり練習をして来てたみたい。

で、相変らずな部分も多く見られた訳。

ボーカルの武井君はノリまくってた・・・ていうかノリすぎ。

ギターの二人は、対照的な音で、両極端。

久我君は高音域、臼井君は低音域、

キンキンとボコボコ、これじゃあ響きがイマイチ。

でも、ドラム用のモニターがオンボロなせいか、

クラッシュシンバルが入るとよく聞こえない。

本当かどうかは眉唾モノだけど、二人よりギターは巧いと豪語する

武井君がいつも二人に言ってるし、

当人達も考えてはいるから、譲歩と改善の見通しもあるでしょう。

それから、ベースの広野君は、いつも聞きやすい音を作っていると思う。

ただ、ベースなのにエフェクターを使い過ぎだよ。

まあ、問題ないからいいけど・・・。

で、問題の武井君。

下手になったと言いつつ、練習はしてきたみたい・・・。

ゴメンね、悪気はないけど、やっぱ聴き苦しい箇所が・・・。

まあ、優に三オクターブはこなさなきゃいけない高いハードル。

ビブラートも苦しい音域でヘロヘロ。

これ以上は言うまい。私も鬼じゃない。

かく言う私は、ミスもしてないしテンポも安定してたよ・・・多分ね。

そんなこんなで、練習は二時間。ちょっと物足りない。

あと一時間は欲しい。そしたら、ゆとりのある練習になるのにな。

ともかく、点滅するランプに急き立てられながら部屋を出て、

これまた狭いロビーで雑談及び打ち合わせ。

って、どっちが先に来るべき?

・・・武井君が、何やらバックを探ってる。

私に誕生日プレゼント・・・だって。

おーし、告知はしておくに限る。

うんうん。で、中身は何?・・・私って図々しい?

でも、武井君、私の誕生日知ってたんだって・・・。

なんか、理由ははぐらかしてたけど

「君が送る恋の波長が教えてくれた。」だって・・・。

私にはそんなもの送った覚えはない。

彼以外は、金欠を理由に何もなしで、一応口裏合わせるだけ。

ちぇ、つまんないの。

まあ、ハッピーバースデイは歌ってくれたし、

そのお陰かスタジオの人が料金割り引いてくれたから、まあ、よしとしよう。

その後、近くのファーストフードに場所を移し、

ライブに向けての選曲等の相談をした。

これが、なかなか決まらない。

選定が、難航してるんじゃなくて、話題が逸れてるだけなんだけど・・・。

すぐに、皆バラバラに喋り出したり、違う話題が飛び出してくるわで、

何にも進行しない。

でも、そこはリーダー武井君、必死に仕切るが、皆の暴走振りの方が上。

かく言う私も別の話題を提供する側だったかも・・・。

で、横道に逸れまくりながらも何とか大筋は決定。

ああ、ようやくお開き。辺りはもう真っ暗。

結局、三時間以上雑談に花を咲かせていたわけだ。

次の練習は、いつものように決まり次第なんだけど、

武井君と臼井君の間で食い違ってる。

あの二人って幼馴染のはずなんだけど、意外と、息合ってない。

誰かがガセネタ流してるとか・・・。

ま、私には正しい日時を伝えてくれさえすればいいけど・・・。

駅に着いた私は、皆とは逆方向に乗るからここでバイバイ。

皆は、安い地下鉄で帰るんだって・・・。

さて、武井君から貰ったテープでも聞きながら帰ろっと。

・・・えっ!何あれ?

ひとつ向こうのホームに私が立ってる!

そんな・・・どうなってるの?

そっくりさんとか双子だとかそんなふざけた話じゃない。

間違いなく私なのに、ホームの誰一人として気づいていない。

向こうにいる私の周りには四人の男の子がいる。

・・・そう、間違いない。

上原君、伊藤君、田村君、堀内君・・・。

どうして?

一体何ナノ?

向こうもスタジオの帰りみたい。

それに、向こうの私の方がかわいい・・・ううん、そんな事はない。

これは断言したい。

・・・何だか頭が痛くなってきた。

思わず悲鳴を上げそうになったけど、何とか我慢して

運良く先に来た電車に駆け込んだ・・・。

 ・・・落ち着きを取り戻すのに、だいぶ時間がかかったみたい。

私は、バックからMDを取り出して、さっき貰ったディスクと入れ替えて再生した。

一曲目は、ピアノから始まるバラード。

武井君一押しの曲・・・LUST FOR LIFE。

人生への情熱・・・いい曲だと思う。

え、ちょっと待って!

このMDくれたのって上原君じゃなかったっけ・・・?

私、さっきまで一緒にいた人達、知り合いじゃない!

あの人たちって、一体誰なの。

・・・いつのまにか、私の降りる駅が間近に迫っていた。

私は、もう一度、あの光景を思い出してみた。

・・・やっぱり、私の知ってる彼らが知らない私と一緒にいて、

私は、知らない彼らといた・・・。

でも、それをおかしいと思わないまま・・・。

私はここにいるのに・・・。

電車を降り、帰路についた私は、ふと、近くの公園に立ち寄った。

・・・誰もいない広場の片隅のベンチに腰を下ろす。

恐る恐るバックを開いて、中を探った。・・・やっぱりある。

武井君からのプレゼント。

・・・震える手で紐をといてみた。なかなか洒落たネックレスだ。

「いつも付けててくれるといいな。」

そういったあの人は・・・?

私は、半ば放心状態のまま帰宅した。

 誕生日の翌日、私は、奇妙な一日を過ごした。

今でもよく覚えてるし、忘れられない。

釈然としないまま、時間の中に埋もれていく。

誰から貰ったのか分からないネックレスと添えられたカードだけが

私の目の前にある・・・。

カードにはこう書かれていた。

-Dear Youko-

Happy birthday!

I wish you well and get along together so long.

                   sincerely yours,

                     from

送り主の名が記されていない。

私は、あの日、誰とスタジオにいて、誰からこれを貰ったんだろう。

それは、二度となかったが、謎めいた体験は、私を離してはくれない・・・。


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